【視察報告】救急医療の「見える化システム」は万能か?札幌市先行導入から見えた現場のリアル


 
みなさん、こんばんは。川崎市議会議員(宮前区選出)の矢沢孝雄です。

 

本日は、川崎市議会 健康福祉委員会で実施した北海道札幌市視察のご報告です。
健康福祉委員会として、先週5/14-15と札幌市-旭川市の取り組みを視察してきました。

 

本日ご報告させていただくテーマは、札幌市「救急医療見える化システム」の導入と運用についてです。

 

川崎市でも実証実験を終え、本格的なシステム導入へ向かおうとしている重要なフェーズにあります。先行してこのシステムを運用している札幌市の事例を学ぶため、今回は綺麗な行政資料だけでは見えてこない「救急現場のリアルと限界」について、質疑応答で交わされた生々しいやり取りを中心に深掘りしてお伝えします。

 

1. なぜ今、救急医療の「見える化」が必要なのか?

 

119番通報をしてから救急車が現場に到着し、病院へ出発するまでの「現場滞在時間」は年々延びています。札幌市では、コロナ前の令和元年には平均17.8分だった現場滞在時間が、令和4年には平均24.4分にまで延びていました。

 

これは156万人都市である私たちの川崎市でも同じです。

 

救急隊が現場で何件も病院に電話をかけ、口頭で必死に説明をする。その間にも患者さんの容態は変化し、救急隊員の労働負荷も限界に達しつつあります。

 

この「電話による伝言ゲーム」をデジタルの力で視覚化・短縮しようというのが、システム導入の最大の目的です。

 

札幌市が導入したシステムは、大きく2つの車輪で動いています。

 

救急隊アプリ(消防局):患者の免許証やお薬手帳をカメラで撮影し瞬時にデータ化(OCR)。心電図やケガの画像もリアルタイムで病院に送信します。
 
SIRIUS(保健福祉局): 医療機関側が「今、何科なら受け入れ可能か」を表示。さらに、搬送された患者の「予後情報(確定診断や入院期間)」を消防へフィードバックし、事後検証を可能にする画期的なシステムです。

 

 

2. 【質疑応答】システム導入で現場はどう変わったか?

 

視察では、川崎市議会の各委員から、システムの運用実態に関する質疑応答も行われました。その一部をご報告致します。

 

Q1. 搬送先の病院はAIが決めるのか?
受け入れ先の病院を選定するとき、それは人の判断でやるんですか?それともAIが判断するんですか?
札幌市職員(消防局): 現場の救急隊員が、傷病者やご家族と話し合い、「ここの病院に行くんですけどいいですか?」と確認した上で、隊員がボタンを押してデータを送信しています。システムはあくまで「受入可能かどうかの目安」を表示するものであり、最終判断は人間が行っています。

 

Q2. 現場でのタブレット入力や音声入力の使い勝手は?
救急現場でいろんなことを入力するのは大変だと思います。音声入力の誤変換などはどう対応していますか?
札幌市職員(消防局): 音声入力も対応していますが、救急車内の他の音を拾ってしまう課題があります。そのため、緊急度が高い事案では、まず名前や住所の写真だけ撮ってすぐに送信・電話連絡し、「急いでいるので詳細は口頭で説明させてください」と伝えてから、移動中に入力・修正を行うなど、状況に応じて柔軟に対応しています。

 

Q3. 災害時や大規模事故でのサーバーダウンのリスクは?
災害時や忙しい時間帯にアクセスが集中して、サーバーがパンクするようなことは起こらないのでしょうか?
札幌市職員(消防局): 救急隊アプリとSIRIUSでサーバーは分かれており、現在のところダウンしたことはありません。端末ごとにアカウントを持っているため、全隊が同時アクセスしても負荷は耐えられます。万が一システムが見えなくなった場合は、従来通りの電話や紙の引き継ぎ書で対応できるよう備えています。

 

Q4. なぜ市内の全病院が参加していないのか?(現在約88%カバー)
医療機関側の機器導入費や使用料の負担はないとのことですが、それでも参加されない病院がある課題は何ですか?
札幌市職員(保健福祉局): 大きく2つあります。1つは、病院側のセキュリティルールの壁です。外部サーバーを使用するため、院内の承認手続きにハードルがあるケースです。もう1つは、医師1人で当直しているような小規模な病院です。結局自分が電話を受けることに変わりはないため、わざわざ端末を見る必要性を感じないという声もあります。

 

Q5. 縦割り行政の弊害?入札が別々に行われた理由
救急隊アプリとSIRIUSはセットのシステムだと思うのですが、スケジュールを見ると入札が2つに分かれています。なぜですか?
札幌市職員(保健福祉局): 一番大きいのは組織的な縦割りの部分です。現場の救急搬送は「消防局」ですが、医師会との調整や医療政策は「保健福祉局」が所管しています。そのため、それぞれが連絡を取り合いながら、別のシステム契約として導入手続きを進めました(※最終的に開発業者は同じになりました)。

 

3. デジタルが越えられない「人間の感情」という壁

 

質疑応答を通じて浮き彫りになったのは、システムを導入すれば全てが自動的に効率化されるわけではないというリアルな現実でした。成果として、医療機関への「受入照会時間」は導入前の9.7分から、導入2年目には8.2分へと確実に短縮されています。

 

しかし、現場の救急隊員が最も苦慮しているのは、システムやAIの「合理性」と、患者さんやご家族の「感情」との折り合いです。

 

札幌市の担当者からは、次のような切実な声が聞かれました。「頭の疾患(脳神経外科)の疑いが強いのに、『普段通っている循環器のかかりつけ医に連れて行ってほしい』と強く希望されるケースが多々あります。状況を説明して納得いただくのに非常に時間を要し、結果的に現場滞在時間が延びてしまいます。AIが『この症状はこの病院へ』と合理的・自動的に選定したとしても、そこに感情が一切入らないため、『私のかかりつけはA病院なのに、なんでB病院が選定されたんですか』というトラブルになりかねず、現場でのアナログな調整は絶対に必要です。」

 

どれだけデジタル化が進んでも、最後は「人対人」のコミュニケーションが不可欠ということを示唆した話だと感じました。

 

システムの効率化と、不安を抱える市民の安心感をどう両立させるかが課題と言えます。

 

4. 終わりに〜川崎市への教訓〜

 

川崎市がこれから本格導入を進めるにあたり、札幌市の事例から参考となる点が多々あったかと思います。

 

「システムを入れれば魔法のように時間が短縮される」わけではないということ。
そして、導入当初は現場の隊員が新しい操作に慣れず、逆に時間がかかってしまう「産みの苦しみ」の時期が必ず来ることを、議会も市民も予め理解しておく必要があります。

 

また、システムを持続的に運用していくための「ランニングコスト」の問題や、消防局と健康福祉局という「局の壁」を越えた連携など、川崎市でも直面するであろう課題が山積しています。

 

救急現場の最前線で奮闘する隊員たちの負担を減らし、市民の命を一人でも多く救うため。今回の視察で得た「リアルな課題感」を川崎市でのシステム導入・運用が真に現場に寄り添ったものになるよう、活かしていきたいと思います。

 

札幌市資料「20260514_救急医療「見える化」システムについて.pdf

 

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回は、旭川市視察の報告ができればと考えています。

 

ABOUTこの記事をかいた人

宮前区選出、川崎市議会議員(自由民主党) A型/乙女座/丑年 菅生小・中学校→法政二高→法政大学卒業 2008年4月伊藤忠テクノソリューションズ入社 2014年7月に政治活動に専念する為、同企業を退社 2015年第18回統一地方選挙において初当選。現在二期目。 趣味:剣道四段、空手二段、書道(毛筆三段、硬筆二段)

インスタグラム

[instashow cache_media_time="600" columns="5" rows="2"]